伊勢うどんやてこね寿司、新鮮な牡蠣に松阪牛まで。古くから「御食国」と称された三重の豊かな食文化を巡る、味わい深い美味探訪ガイド。

古くから朝廷に数々の食材を納める「御食国(みけつくに)」として栄え、豊かな自然の恵みを受け継いできた三重県。南北に長く広がる地形は、伊勢湾や熊野灘の豊かな海の幸、鈴鹿山脈や紀伊山地の清らかな水と肥沃な大地に育まれた農畜産物など、多彩な食の宝庫をつくり出してきました。伊勢神宮の参拝客をもてなすために発達した街道グルメから、志摩半島の海女文化が息づく海鮮料理、さらには伝統の味を現代に再解釈した最新の食の発信地まで、その魅力は尽きることがありません。

本記事では、三重県が誇る代表的な郷土の味や旬の味覚を心ゆくまで堪能できる名所を厳選してご紹介します。食べ歩きが楽しい門前町、潮風を感じながら海の恵みをいただくシーサイドロード、食の知恵と技が集まる滞在型複合施設、そして歴史情緒あふれる街道宿場の名物甘味まで、幅広く網羅しました。一人旅での気ままな味巡りから、ご家族やご友人との思い出深いグルメドライブまで、旅のスタイルに合わせて活用できる実用的な情報をお届けします。

おかげ横丁・おはらい町(伊勢市)

伊勢神宮内宮の宇治橋前から五十鈴川に沿って延びる「おはらい町」と、その中ほどに位置する「おかげ横丁」は、伊勢路の伝統的な食文化が一堂に会する一大グルメスポットです。おはらい町は、かつて全国から訪れる参宮客を案内した「御師(おんし)」の館が立ち並んでいた通りで、切妻造りの町家が美しく連なっています。その中心部にあるおかげ横丁は、1993年(平成5年)の伊勢神宮式年遷宮に合わせて、江戸から明治期にかけての伊勢路の建築美を再現して整備されました。

この界隈に根付くグルメの多くは、長旅を経てお伊勢参りに訪れた参拝客の心身を癒やすために生まれたものです。たとえば名物の「伊勢うどん」は、旅人の弱った胃腸に負担をかけないよう、太い麺を柔らかく茹で上げ、溜まり醤油に鰹節や昆布の出汁を合わせた濃厚な黒いたれを絡めて食べる独自の工夫から生まれました。また、漁師が獲れたての鰹を船上で手早くタレに漬け込み、酢飯と手で豪快に混ぜ合わせて食べたことが始まりとされる「てこね寿司」など、地域の暮らしと歴史が結びついた滋味深い料理が今も受け継がれています。

おすすめの訪問時間帯は、各店舗が開店し始める午前9時半から11時頃、または混雑が落ち着く午後3時以降です。昼時は参拝客が集中するため、人気店では長い列ができることも珍しくありません。午前中の早い時間帯に内宮参拝を済ませ、混み合う前に早めの昼食をとるのが混雑を回避するコツです。また、多くの店舗が夕方には閉店するため、夕食目当ての場合は営業状況を事前に確認しておくと安心です。

アクセスは、近鉄宇治山田駅・伊勢市駅から三重交通バス「内宮前」行きに乗車し約15分から20分、「内宮前」停留所下車すぐです。近鉄五十鈴川駅からもバスで約6分でアクセスできます。車の場合は伊勢自動車道「伊勢IC」から約5分ですが、週末や観光シーズンは周辺駐車場が満車になりやすいため、県営パーク&バスライドなどの交通案内に従うことをおすすめします。

あわせて立ち寄りたいスポットとしては、伊勢うどんの有名老舗店や、地ビール「伊勢角屋麦酒」の内宮前店があります。五十鈴川沿いの散策路には趣あるカフェも点在しており、神宮参拝とセットで伊勢の豊かな食文化を一日中楽しむことができます。

パールロード・鳥羽展望台(鳥羽市〜志摩市)

鳥羽市安楽島から志摩市阿児町を結ぶ約23.8キロメートルの「パールロード」は、リアス海岸の美しいパノラマと海の幸を一度に満喫できる絶景ドライブルートです。1973年(昭和48年)に有料道路として開通し、2006年に無料開放されました。沿道には鳥羽市浦村町をはじめとする全国屈指の牡蠣の養殖場が広がり、秋から冬にかけてのシーズンには「牡蠣ロード」と呼ばれるほど、多くの牡蠣小屋や海鮮食事処が賑わいを見せます。

この海域で育つ牡蠣や魚介類が格別に美味しいとされる理由は、背後に広がる山々から伊勢湾・生浦湾へと注ぎ込むミネラル豊富な森の恵みにあります。海水と淡水が絶妙に混じり合う汽水域で育つ「浦村かき」は、成長が早く1年で出荷されるため、特有のエグみが少なく、柔らかく澄んだ甘みとふっくらとした身入りが特徴です。また、古くから素潜り漁を守り続けてきた海女文化の拠点でもあり、海女小屋で炭火を囲みながらサザエやアッパッパ貝(ヒオウギガイ)、伊勢海老などを焼き立てで味わう体験も旅人に高く評価されています。

ベストシーズンは、牡蠣の旨味がもっとも濃厚になる12月から3月頃の冬場です。牡蠣小屋の多くは完全予約制となっているため、旅の計画が決まり次第、早めに予約を入れておくのが鉄則です。ドライブ単体であれば新緑の春や秋の晴天日も爽快で、空気が澄んだ午前中から昼過ぎにかけての時間帯がもっとも海の青さが映えます。

アクセスは、伊勢二見鳥羽ライン「鳥羽IC」から国道42号を経由してパールロード方面へ進みます。鳥羽駅周辺から鳥羽展望台までは車で約30分、志摩市街(鵜方)からも車で約40分です。公共交通機関を利用する場合は、鳥羽駅から「かもめバス」を利用して相差や国崎方面へアクセスできますが、沿道のスポットを効率よく巡るにはレンタカーやマイカーの利用が便利です。

周辺には、女性の願いを一つだけ叶えてくれるとされる「神明神社(石神さん)」や、海女の歴史を展示する「相差海女文化資料館」があります。食事の前後には海女の町・相差の路地を散策したり、海岸線を望む展望足湯に立ち寄ったりと、海沿いならではの穏やかな時間を過ごすことができます。

VISON(ヴィソン)(多気町)

多気郡多気町の大自然に抱かれた「VISON(ヴィソン)」は、敷地面積約119ヘクタール(東京ドーム約24個分)を誇る、日本最大級の滞在型商業リゾートです。2021年(令和3年)7月にグランドオープンしたこの施設は、「命を喜ばせる場所」をコンセプトに、宿泊施設、温浴施設、産直市場、薬草園、そして多彩な食のエリアが有機的に結びついています。地名の「多気」が「多くの気を育む」という意味を持つことからも着想を得て、三重の風土と持続可能な暮らしを発信する拠点として誕生しました。

VISONの最大の特徴は、三重県内の伝統食材や発酵文化を、日本を代表するトップシェフたちの手によって最先端のグルメ体験へと昇華させている点にあります。敷地内には「マルシェ ヴィソン」「和ヴィソン」「サンセバスチャン通り」など個性豊かな食のエリアが点在。「和ヴィソン」では、醤油、味噌、みりん、鰹節、昆布といった日本料理の根幹を成す発酵調味料の蔵元や老舗が軒を連ね、伝統的な製法の紹介やワークショップ、出来立ての味の提供を行っています。古来の食文化の奥深さを学びながら味わえる、新しい知的好奇心の刺激に満ちた空間です。

混雑を避けるなら、平日の午前中か、土日祝日であれば午前10時前の早い時間帯に入場するのが理想的です。特にランチタイムの11時半から13時半頃は各レストランが混み合いますが、広大な敷地内にテイクアウト可能な店舗が多数あるため、天気の良い日はテラス席や芝生広場でオープンエアの食事を楽しむのも賢い選択です。新緑の春や紅葉の秋は屋外での散策が非常に心地よい季節となります。

アクセスは、伊勢自動車道「勢和多気IC」または紀勢自動車道「多気ヴィソンSIC」(ETC専用)直結で、名古屋方面・伊勢方面のどちらからもスムーズに入退場できます。公共交通機関を利用する場合は、近鉄・JR松阪駅、近鉄五十鈴川駅、または津駅などから三重交通の直行路線バスが運行されています。

施設内には、本草学に基づいたオリジナル薬草湯が楽しめる温浴施設「本草湯」が併設されており、美味しい食事のあとに絶景露天風呂でリフレッシュする過ごし方も人気です。また、周辺には清流・宮川が流れており、奥伊勢の豊かな自然環境を肌で感じることができます。

東海道 関宿(亀山市)

鈴鹿山脈の南東麓に位置する亀山市の「関宿(せきじゅく)」は、江戸時代に整備された東海道五十三次の47番目の宿場町です。古代の三関の一つ「鈴鹿関」が置かれた歴史ある地であり、江戸期には伊勢別街道や大和街道が分岐する交通の要衝として大いに繁栄しました。現在も往時の町並みが約1.8キロメートルにわたって奇跡的に残されており、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。電柱が地中化され、連格子や瓦屋根の宿場町景観がそのまま息づく通りには、旅人の足を止めさせてきた歴史ある銘菓や郷土料理が今も静かに息づいています。

関宿を代表する味として古くから親しまれているのが、創業寛永年間(1624〜1644年)の老舗が伝える銘菓「志ら玉(しらたま)」です。上質米の米粉で作られた皮に滑らかなこし餡を包み、赤・黄・緑の三色に染められた米粒を上にちょこんとあしらった上品な生菓子です。この三色は四季を表しているとも、街道を行き交う旅人の安全を願う宝珠を象徴しているとも伝えられています。素朴ながらも洗練された甘さは、かつて鈴鹿峠の険しい山越えに挑んだ旅人や、峠を越えて無事に宿場にたどり着いた旅人たちの疲れを癒やしてきました。

おすすめの訪問時間帯は、午前中の10時から午後2時頃です。関宿は観光地化されすぎていない落ち着いた町並みが魅力ですが、夕方前には個人商店や資料館が閉まってしまうことが多いため、昼前後に散策と食事を合わせるのが最適です。春の桜や初夏の新緑、秋の紅葉など、背後に控える鈴鹿の山並みが色づく季節は、街道歩きがいっそう風情を増します。

アクセスは、JR関西本線「関駅」から徒歩約5分と、公共交通機関でのアクセスが非常に良好です。車の場合は名阪国道「関IC」または東名阪自動車道「亀山IC」から約5分で到着します。観光駐車場(無料)が街道の東西に整備されているため、車を停めてのんびりと徒歩で散策を楽しむことができます。

周辺には、江戸時代の豪商の屋敷を公開している「関宿旅籠玉屋歴史資料館」や、宿場の鎮守である「関神社」があります。また、少し足を延ばせば鈴鹿山脈の自然を満喫できるドライブコースも広がっており、歴史散歩とグルメを落ち着いた雰囲気で満喫したい大人旅に最適なエリアです。

モデルプラン

三重県の豊かな食文化を、海の幸から歴史ある名物、最先端の食の発信地まで1日で効率よく堪能する王道のグルメドライブプランです。

旅のヒント

三重県のグルメ巡りを快適に満喫するための実用的なポイントをまとめました。

よくある質問

Q. 伊勢うどんはコシがないと聞きますが、どんな食感ですか?
A. 讃岐うどんのような強い弾力とは対照的に、伊勢うどんは1時間近くじっくり茹で上げることで、ふわふわと柔らかく、もっちりとした独特の優しい食感に仕上がっています。見た目は真っ黒で塩辛そうに見えるたれも、出汁の旨味とみりんの甘みが利いており、見た目以上にあっさりといただけます。旅の疲れを癒やす伝統の味をぜひ体験してみてください。

Q. 冬の牡蠣食べ放題に行きたいのですが、予約なしでも利用できますか?
A. 鳥羽市浦村町周辺の牡蠣食べ放題の店舗は、ほぼ全店が事前予約制となっています。特に12月から2月の週末は数週間前から満席になることも多いため、旅行日が決まり次第、早めに電話やWebで予約することをおすすめします。予約なしの場合は、鳥羽展望台などのドライブインや一般の海鮮料理店で単品の焼き牡蠣・蒸し牡蠣を注文するのが確実です。

Q. 車がなくても主要なグルメスポットを巡ることはできますか?
A. おかげ横丁(伊勢神宮)や関宿は、主要駅から路線バスや徒歩で快適にアクセスできます。また、松阪駅や五十鈴川駅からVISONへの直行バスも運行されています。ただし、パールロード沿いの牡蠣小屋や展望台をピンポイントで巡る場合は、便数が限られるためレンタカーの利用がもっともスムーズです。

まとめ

神宮参拝の旅人を温かくもてなしてきた伝統の伊勢うどんや銘菓、黒潮と豊かな森が育む極上の牡蠣や海の幸、そして最先端の発酵文化や郷土の知恵が息づく新旧の食の拠点まで、三重県には五感を満たす素晴らしい食文化が息づいています。一口味わうごとに、その土地の風土や受け継がれてきた人々の想いが伝わってくるのも、御食国・三重ならではの醍醐味です。今度の休日は、豊かな自然と歴史が育んだ本物の味を求めて、三重の美味巡りの旅へ出かけてみませんか。