日本海の鮮魚や松葉ガニ、大山が育むお肉や乳製品まで。鳥取県の豊富な食文化と絶品ご当地グルメを巡る感性豊かな旅をご紹介します。
山陰地方の東部に位置する鳥取県は、北は雄大な日本海に面し、南には中国地方の最高峰・大山(だいせん)をはじめとする豊かな山々が連なる、自然の恵みに満ちあふれた地域です。寒暖差のある豊かな気候と清らかな湧水、そして豊かな漁場を持つ鳥取は、知る人ぞ知る西日本の美食エリアでもあります。
秋から冬にかけて水揚げされる松葉ガニや紅ズワイガニをはじめ、県外にはほとんど出回らない「幻のモサエビ」、肥沃な大地で育まれたブランド鶏「大山どり」や「鳥取和牛」、さらには地元の生活文化から生まれた「鳥取牛骨ラーメン」や「餅しゃぶ」など、鳥取にはここでしか味わえない独自のグルメが数多く存在します。
本記事では、全国観光メディア「旅ごよみ」編集部が、鳥取の歴史や風土に根ざした食の魅力をじっくりと掘り下げてご紹介します。季節や旅のスタイルに合わせた美食探訪のヒントとして、ぜひお役立てください。
1. 境港エリア:日本有数の漁港で味わう「海の幸」と妖怪グルメ
鳥取県西部の弓ヶ浜半島の先端に位置する境港(さかいみなと)は、日本有数の水揚げ量を誇る名物漁港です。対馬暖流と日本海の固有水が交わる豊かな漁場に近く、年間を通じて多様な魚介類が競り落とされます。
なかでも有名なのが、深海に生息する「紅ズワイガニ」と、冬の味覚の王者である「松葉ガニ(ズワイガニの雄)」です。紅ズワイガニは境港が全国トップクラスの水揚げ量を誇り、甘みが強くジューシーな身が特徴です。また、境港の街中には漫画家・水木しげる氏の功績を称えた「水木しげるロード」が広がり、港町の活気と妖怪文化が融合した独自の食空間を作り出しています。
さらに境港には、地元で古くから愛されてきた郷土料理「いただき」があります。これは大きな油揚げの中に生のお米、生ごぼう、にんじんなどを詰め、出汁と醤油でじっくりと炊き上げたもので、かつて農繁期のごちそうとして振る舞われた歴史を持ちます。港町の歴史と人々の知恵が詰まった心温まる味覚覚です。
- 活気あふれる海鮮丼とカニづくし料理:競り落とされたばかりの新鮮な魚介を惜しみなく盛り付けた海鮮丼や、茹でたて熱々の紅ズワイガニ・松葉ガニを堪能できる海鮮食堂が港周辺に立ち並びます。
- 「水木しげるロード」の散策と妖怪スイーツ:鬼太郎や妖怪たちをモチーフにしたキャラクターパン、妖怪モチーフのお饅頭や和菓子、地ビールなど、目でも舌でも楽しめる食べ歩きグルメが満載です。
- 伝統の郷土料理「いただき」の食べ比べ:出汁の旨味がじっくり染み込んだ大きな油揚げとご飯の絶妙なハーモニーを、地元の直売所や惣菜店で気軽に楽しめます。
- 所要時間の目安:見学・食事・散策を合わせて約2時間30分〜3時間。
おすすめの時間帯・季節:海の幸を満喫するなら、朝の競りが終わり新鮮な魚介が店頭に並ぶ午前中から昼過ぎにかけてがベストです。カニの最盛期は、秋(9月以降の紅ズワイガニ)から冬(11月〜3月の松葉ガニ)にかけて。混雑を避けるには、休日の昼ピーク(12:00〜13:30)を避け、早めの昼食として11時頃に訪れるのがおすすめです。
アクセス:JR米子駅からJR境線(鬼太郎列車)で約45分、「境港駅」下車すぐ。車の場合は米子自動車道「米子IC」より約40分。
あわせて寄りたい周辺スポット:「境港竹内工業団地」周辺の鮮魚直売所や、日本海の絶景を望む美保関(みほのせき)エリアの老舗旅館・割烹食堂などがおすすめです。
2. 倉吉白壁土蔵群エリア:蔵の街並みで出合える「餅しゃぶ」と「牛骨ラーメン」
鳥取県の中部に位置する倉吉(くらよし)は、江戸時代から明治時代にかけて陣屋町・商業都市として栄えた歴史的な街です。玉川沿いに佇む白壁の土蔵や赤瓦の屋根、黒塗りの腰板が続く「倉吉白壁土蔵群」は、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。
この情緒あふれる城下町で親しまれてきた名物料理が「餅しゃぶ」です。かつてお祝い事やもてなしの席で食べられていたお餅を、現代風にアレンジしたもので、和牛や季節の野菜とともに、12種類ものカラフルな薄切り餅を出汁にくぐらせて味わう風雅な料理です。栃餅やよもぎ餅、海老餅、胡麻餅など、ひとつひとつ異なる風味と柔らかな食感が楽しめます。
また、倉吉を中心とする鳥取県中部エリアは「鳥取牛骨ラーメン」の発祥の地としても知られています。戦後、シベリア抑留から引き揚げてきた人々や地元の料理人が、牛骨を使ってスープを採ったことが始まりとされており、じっくり時間をかけて煮出した牛骨スープは、牛脂の香ばしい旨味とすっきりとした後味が特徴です。関東の豚骨や関西の鶏ガラとは一線を画す、鳥取ならではの深いソウルフードです。
- 彩り豊かな「餅しゃぶ」の食味体験:老舗の町家レストランで提供される餅しゃぶは、出汁にサッとくぐらせる数秒の間に柔らかく変化するお餅の食感が絶品です。写真映えする美しさも魅力。
- 澄んだスープが深い味わいを生む「鳥取牛骨ラーメン」巡り:倉吉市内には昭和レトロな雰囲気を残す老舗ラーメン店が点在し、各店ごとに醤油ベース、塩ベースなどこだわりの牛骨スープを飲み比べできます。
- レトロな蔵巡りと喫茶体験:赤瓦の土蔵を活用したショップやカフェでは、石臼で挽いた豆を泡立てて味わう「石臼コーヒー」や、伝統の和菓子「打吹公園団子」を楽しめます。
- 所要時間の目安:散策と食事を合わせて約2時間〜2時間30分。
おすすめの時間帯・季節:昼食時に合わせて11:30〜13:30頃に訪れるのが最適です。歴史的街並みは四季折々の情緒があり通年楽しめますが、肌寒い秋から冬にかけては温かい出汁の餅しゃぶや、熱々の牛骨ラーメンがより一層美味しく感じられます。
アクセス:JR山陰本線「倉吉駅」より路線バス(市内線)で約12分、「赤瓦・白壁土蔵」下車。車の場合は米子自動車道「湯原IC」または「蒜山IC」より約40分。
あわせて寄りたい周辺スポット:車で約20分の場所にある名湯「三朝温泉(みささおんせん)」での日帰り入浴や、伝統工芸「倉吉絣(くらよしがすり)」の体験工房などが立ち寄りに適しています。
3. 大山まきばみるくの里エリア:名峰の裾野が育むブランド素材と搾りたて乳製品
鳥取県西部に聳え立つ「大山(だいせん)」は、古くから修験道の霊山として信仰を集めてきた神聖な山であり、豊かなブナの原生林と良質な地下水に恵まれています。大山山麓の黒ボク土と呼ばれる栄養豊富な土壌と広大な草原は、西日本有数の酪農・畜産地帯を作り上げています。
「大山まきばみるくの里」は、大山乳業農業協同組合が運営する人気の観光牧場エリアです。目の前には雄大な大山北壁が迫り、背後には弓ヶ浜半島と日本海のパノラマが広がる絶好のロケーションです。ここで味わえる牛乳やソフトクリームは、地元で「白バラ牛乳」として親しまれているブランド乳から作られており、フレッシュでコクのある味わいが全国的に高く評価されています。
また、大山山麓の清らかな水と澄んだ空気の中で育つ「大山どり」や「鳥取和牛」も忘れられない味覚です。大山どりは、適度な歯ごたえとジューシーな旨味が特徴で、焼き鳥や唐揚げ、水炊きなどでその実力を発揮します。さらに、参拝客の力水として愛されてきた伝統の「大山そば」は、蕎麦の実を殻ごと挽き込んだ黒っぽい麺と芳醇な香りが特徴で、古くからの歴史を感じさせる逸品です。
- 名物「白バラソフトクリーム」と新鮮な乳製品:新鮮な生乳を贅沢に使用した濃厚ソフトクリームは、濃厚なコクがありながら後味が爽やかで、ドライブの休憩に欠かせない大人気スイーツです。
- 「大山どり」と「鳥取和牛」を味わう高原バーベキュー:大山山麓のレストランやレストラン農園では、ブランド鶏や和牛、地元野菜を贅沢に味わうバーベキューやステーキが楽しめます。
- 伝統の「大山そば」と精進料理:大山寺の参道沿いには歴史ある蕎麦処が並び、香ばしい挽きぐるみ蕎麦や、山菜を使ったからだに優しい精進料理を堪能できます。
- 所要時間の目安:見学・食事・喫茶を含めて約1時間30分〜2時間。
おすすめの時間帯・季節:青空が広がる午前10時〜午後2時頃が最も美しく、大山の雄姿を眺めながら食事が楽しめます。新緑が眩しい5月〜6月や、山全体が赤や黄色に染まる10月下旬〜11月上旬の紅葉シーズンがベストです。土日祝の午後はソフトクリーム売り場が混雑するため、午前中の早い時間が狙い目です。
アクセス:米子自動車道「米子IC」または「溝口IC」より車で約15〜20分。JR米子駅より車で約30分。
あわせて寄りたい周辺スポット:日本最大級のフラワーパーク「とっとり花回廊」や、世界的な写真家・植田正治氏の作品を展示する「植田正治写真美術館」が近くにあります。
4. 鳥取砂丘・鳥取市エリア:幻のモサエビとカレー王国が育むご当地グルメ
鳥取県の東部に位置する県庁所在地・鳥取市は、日本最大級の海岸砂丘である「鳥取砂丘」を擁する観光の拠点です。鳥取砂丘は千代川(ちよがわ)が運んだ砂と日本海の風波が生み出した自然のアートであり、周辺には砂丘地帯特有の農産物や、日本海の豊かな恵みが集結します。
ここでぜひ味わいたいのが、秋から春にかけて水揚げされる「モサエビ(クロザコエビ)」です。モサエビは旨味と甘みが甘エビ以上と評されるほど絶品ですが、痛みが早く鮮度が落ちやすいため、遠方への出荷が極めて難しいエビです。そのため、地元鳥取でしかほぼ味わえないことから「幻のエビ」と呼ばれています。ぷりぷりの刺身や、香ばしい塩焼き、モサエビ天丼など、現地ならではの贅沢な味わい方が魅力です。
また、鳥取市は「カレールーの消費量」で全国トップクラスを記録することが多く、隠れた「カレー王国」として知られています。昔ながらの喫茶店から専門店、カフェに至るまで、地元の食材(鳥取和牛、鳥取どり、砂丘らっきょう)を生かした個性豊かなご当地カレーが楽しめます。砂丘名物のシャキシャキとした「砂丘らっきょう」は、カレーの最高のパートナーとして親しまれています。
- 「幻のモサエビ」を満喫する海鮮丼:砂丘周辺や鳥取港の食堂で提供されるモサエビ丼は、口に入れた瞬間に広がる強い甘みととろけるような食感が自慢です。
- 鳥取カレーと砂丘らっきょうの食べ比べ:鳥取和牛のスジ肉を煮込んだ濃厚なカレーや、鳥取産トマトを使ったスパイスカレーなど、砂丘らっきょう漬けを添えて味わう至福のカレー体験。
- 砂丘名物「梨ソフトクリーム」と焼きちくわ:鳥取名産の二十世紀梨を使った甘酸っぱいソフトクリームや、香ばしく焼き上げられた「因幡の焼きちくわ」の食べ歩き。
- 所要時間の目安:砂丘散策と食事・立ち寄りを合わせて約2時間30分〜3時間。
おすすめの時間帯・季節:モサエビの旬は9月〜5月(特に冬から春先にかけて)。砂丘散策は日差しが穏やかな午前中または夕暮れ時が快適です。食事処は12:00〜13:00が混雑するため、11:30頃または13:30以降の利用がスムーズです。
アクセス:JR鳥取駅より路線バス(鳥取砂丘行き)で約20分、「鳥取砂丘」下車。車の場合は鳥取自動車道「鳥取IC」より約20分。
あわせて寄りたい周辺スポット:砂の彫刻を展示する「砂の美術館」や、因幡の白うさぎ伝説で有名な「白兎神社」、フレンチ洋風建築の重要文化財「仁風閣」などがおすすめです。
3. モデルプラン:鳥取美食横断ドライブ1日コース
鳥取県の食の魅力を西から東へ効率よく巡り、海・山・街のご当地グルメを一日で制覇するドライブプランをご紹介します。
- 08:30 境港駅スタート・水木しげるロード散策
朝の澄んだ空気のなか、水木しげるロードを散策。早朝から営業しているパン屋さんで妖怪パンを手に入れたり、港近くの直売所を訪ねます。(移動:車で約50分) - 11:00 倉吉白壁土蔵群に到着・ランチ
情緒あふれる白壁土蔵群を散策し、老舗店舗で名物の「餅しゃぶ」または澄んだ出汁が美味しい「鳥取牛骨ラーメン」の昼食を楽しみます。(移動:車で約35分) - 13:30 大山まきばみるくの里へ
大山を仰ぎ見る絶景の高原へ移動。食後のデザートとして濃厚な「白バラソフトクリーム」を味わい、緑豊かな放牧地帯でリフレッシュ。(移動:車で約1時間15分) - 16:00 鳥取砂丘に到着・夕暮れ散策
鳥取砂丘の広大な砂の丘を歩き、日本海に沈む夕日や風紋の美しさを堪能。砂丘周辺のショップで梨ソフトクリームや砂丘らっきょうをチェック。 - 18:00 鳥取市内または鳥取港で海鮮・モサエビディナー
鳥取港近くの海鮮料理店や鳥取駅周辺の居酒屋で、「モサエビの刺身」や新鮮な日本海の魚介類、鳥取和牛を味わい、充実したグルメ旅を締めくくります。
4. 旅のヒント:鳥取グルメ旅をより楽しむ実用情報
鳥取県での美食巡りをより快適に、安全に楽しむための実用的なアドバイスをまとめました。
- 服装と靴の選び方:鳥取砂丘や大山高原、石畳の倉吉白壁土蔵群など、歩く場面が多くなります。履きなれたスニーカーや歩きやすい靴が必須です。また、大山山麓は平野部より気温が3〜5度ほど低いため、脱ぎ着しやすい上着を持参すると安心です。
- 旬の時期をチェック:カニ(松葉ガニ)やモサエビなどの海産物は、時期や時化(しけ)による水揚げ状況で提供状況が変わることがあります。カニの旬は11月〜3月、モサエビは9月〜5月です。梨(二十世紀梨など)の収穫期は8月下旬〜10月上旬となります。
- 混雑回避のコツ:週末や行楽シーズンの人気店(海鮮丼、牛骨ラーメン、餅しゃぶ)は昼時に行列ができます。開店直後の11:00過ぎか、ピークを過ぎた13:30以降を目指すと比較的スムーズに入店できます。
- 雨の日の過ごし方:天候が崩れた場合は、アーケードや室内施設が多い倉吉白壁土蔵群の蔵見学や、鳥取砂丘に隣接する屋内施設「砂の美術館」、境港の鮮魚市場巡りなどを中心とした行程に切り替えるのがおすすめです。
5. よくある質問
Q. カニやモサエビを味わうのに最もおすすめの季節はいつですか?
A. 松葉ガニ(ズワイガニ)の解禁は毎年11月上旬で、3月頃までがシーズンです。この時期は冬の海の幸が最も充実します。また、モサエビは9月から5月まで水揚げされますが、特に秋から春先にかけての寒い時期に旨味が増すと言われています。
Q. レンタカーがなくてもグルメ巡りは可能ですか?
A. JR山陰本線やJR境線、各市内の路線バスを活用すれば、境港・倉吉・鳥取砂丘などの主要エリアを巡ることができます。ただし、大山山麓や郊外の絶景スポットを効率よく回る場合は、レンタカーの利用がより自由度が高くおすすめです。
Q. 「モサエビ」は鳥取県内のどこで買ったり食べたりできますか?
A. 鳥取市内の鳥取港(賀露港)周辺の海鮮食堂や鮮魚市場、境港の直売所、鳥取駅周辺の居酒屋などで味わうことができます。水揚げ状況によって入荷がない日もあるため、出かける前に店舗に問い合わせるか、複数の海鮮処をチェックすると良いでしょう。
Q. 鳥取の牛骨ラーメンはどのような味わいですか?豚骨とは違いますか?
A. 豚骨ラーメンのような独特の強い臭みは少なく、牛骨ならではの香ばしく甘みのある出汁が特徴です。見た目は比較的澄んだ醤油や塩のスープが多く、表面に浮かぶ牛脂のコクと、すっきりとした後味がクセになる味わいです。
6. まとめ
鳥取県は、豊かな日本海がもたらすカニやモサエビなどの極上海鮮と、名峰・大山が育むお肉や新鮮な牛乳、そして城下町や港町の歴史が生んだ牛骨ラーメンや餅しゃぶなど、多彩で奥深いグルメの宝庫です。
それぞれのエリアに異なる食文化と物語が存在し、ひとくち口にするたびに鳥取の豊かな風土と人々のあたたかな想いが伝わってきます。季節ごとに表情を変える美しい風景とともに、五感で味わう至福の鳥取グルメ旅へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。